「そうだよ。いつだって冷たい。
俺がこんなに弱ってるっていうのに」

紫馬が肩を竦めて見せる。

「あなたが弱っているときにしかここに来ないからそうなるんだわ」

くすり、と。羽が落ちるかのように、かすかな笑いをママは漏らす。

「弱っているときに、君の顔が見たくなるんだよ」

甘いマスクを裏切らないような、甘い言葉を低い声で囁く。
誰もがときめくようなその口調にも関わらず、ママは年齢以上の若さを思わせるような軽い笑い声をあげる。

「嫌だわー、紫馬くん。
口説き方に進歩なさすぎっ」

遠い昔の二人の関係を思い出させるような言葉遣いに、紫馬は形の良い眉を吊り上げてみせた。

「口説き方なんて、何万年も前から似たようなもんですよ。
それに。
先生以外の女性なら、皆これで落ちるんですけどねぇ」

冗談めかした口調で、昔の呼称を使ってみせる。

「そう?
じゃあ良かったじゃない。
私一人より、多い方が楽しいでしょう?」

紫馬くん、3Pとか好きだもんねー、と。
美しい顔に似つかわしくない下世話な言葉がその、紅いルージュの似合う唇から発せられる。

「見たことあるんですか?」

紫馬が呆れ顔で問う。

「あら、そういうのって見せたり見られたりするもんじゃないでしょ?
人が見てないときにこっそりやるんじゃない」

相変わらずだ。
相変わらず、はっきりきっぱりさっぱりしている。

紫馬は諦め顔で煙草を銜えた。