『都ちゃん、拳銃はもう、終わりって言ったでしょう?』

タイミングよく入ってきた紫馬が、テーブルの上にチューリップの入った花瓶を置きながら諭すように言う。

『えー、もう、終わり?』

都は、家に帰りましょうと促された子供のように、半信半疑の顔を作って首を傾げてみせる。
紫馬は、ゆっくりと都の前に歩み寄るとしゃがんで目線を合わせた。

じっくりと、都の瞳の奥の奥まで覗き込み、都の焦点が合わなくなるのをじっと待った。
それから、耳元で、何ごとかを囁き続ける。

そうして彼女の状態が完全に変わったのを確認してから、脳髄に直接喋りかけるように低い声を発した。

『そう、もう終わり。
八色都さんは、拳銃なんて撃てません。
分かった?』

都は、操り人形にでもなったかのように不自然にこくりと深く頷いた。

パン、と。
紫馬が手を叩く。

都の視線がまっとうに戻った。

清水はこのとき説明を受けなかったが、これこそが紫馬が得意とする催眠術であった。

これ以降、都の記憶から自分が他人を銃殺した記憶はおろか、銃の使い方をマスターしたことすらも抜け落ちてしまったのだ。
彼女が再び拳銃に出会うのはもっと後の話となる。