『あーん、みやちゃんがあげたチューリップ、パパが取ったら駄目なのっ』

都はテーブルの上に置いてある、ややしおれたチューリップを見て酷く落胆した声をあげた。

『花瓶にさせば、すぐに元気になるよ。
パパが入れてきてあげようね』

今にも泣き出しそうな声を出された紫馬は、慌ててチューリップを掴み、ついでに部屋の中にあった、薔薇やカスミソウに彩られている花瓶を無造作に掴んで即座に出て行く。

『色々と、申し訳ありません』

清水は立ち上がり、静かな声でそう言うと、大雅に向かって深々と頭を下げた。

大の大人が中学生に向かって真面目に頭を下げている。
滑稽ともいえる光景だが、慣れているのか大雅はゆっくり頷くにとどまった。

『いえ、とんでもありません。どうぞ、頭を上げてください。
うちの都さんが心配していますよ。
それに、紫馬さんのご学友であれば、私も見て見ぬふりなど出来ませんからね。
それにしても二度も殺されかかるなんて、災難ですね』

大雅は慣れた口調で、大人顔負けの丁寧な挨拶を返す。
もっとも、都の名前の前に「うちの」と所有格をつけるのだけは忘れなかったのだが。

清水は緩やかに顔をあげた。
紫馬の友人というだけあって、紫馬に引けをとらない美形だ、と。
大雅はそんなことを思った。

『どうして?
おじさん、何か悪いことしたの?』

都は二人の中間点に立って心配そうな視線を両方に向ける。

『大丈夫ですよ、都さん』

優しい眼差しを都に向けてそう言ってから、瞳の色も雰囲気もがらりと引き締めて清水を見る。

『私は銀大雅と申しますが、お名前をお聞きしても?』

『申し遅れました。清水英明と申します』

名前だけを丁寧に聞き出してから、再び都に甘い口調で語りかける。

『清水さんは悪いことなどされてません。
むしろ、悪い奴らにはめられるところだったのです』

『ふぅん。
ねぇ、ここに居たら大丈夫でしょ?
みやちゃんと一緒に居たら、悪い奴ら来ないもんっ。
それに、みやちゃんがばぁんって殺してあげるから、平気だし』

都は指で鉄砲を作り、バン、と茶目っ気たっぷりに入り口の方に向けて撃つ。