『お兄ちゃん、眠れないの?』

いつ、目を覚ましたのだろうか。
大雅はその声に我に返る。
枕をクッション代わりに、体を起こしていた。

そんな自分に、都が心配そうな顔をずいと近づけてくる。

『眉間に皺、寄ってるよ?』

小さな手が無遠慮に、大雅の眉間に触れた。
大雅はそのまま都の小さな体を抱き寄せる。
抱き寄せられていることに、慣れているので、都は何の抵抗も示さなかった。

もちろん、都の方は恋人として抱きしめられているなどという自覚は微塵もなく……。
単に、幼子が親に抱きつくのと同じ行為だという認識しかないのだが。

『都さんが一人で危ない目にあうからですよ』

出来るだけ柔らかい声で、そう告げる。
それでも、怒られていると感じたのか。
都は即座に唇を尖らせた。

『一人じゃないもんっ。
山下って刑事が居たし。
あ、でもランドセル傷だらけになっちゃった。しかも、証拠物件とか何とか言って山下が持って帰ったわ。ごめんなさい。おじいさまが折角買ってくれたのに』

どうでも良い事でしょげているのが可笑しくて、大雅は都の黒髪を撫でる。

『ランドセルなんて、幾つだって買ってあげますよ。
それより、怪我はなかったんですか?』

『うん、みやちゃんは怪我とかしないの。
おじさんも怪我しなかったよ』

えへんと、胸をはってみせる。
子供じみた仕草を意識しているのではなく、本当に得意げになっているのがこれまた可笑しかった。