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あの夜も、別世界を思わせるように月光が綺麗だった。
皆が寝静まった大部屋で、清水は薄いカーテンを開ける。
自分が寝るはずのベッドに横たわっているのは、疲れ果てたお姫様。
月明かりに照らされて、美しさがより際立っていた。
足音も立てずに、人影が近づいてくる。
大学時代の後輩である、紫馬だ。先ほど電話で娘が来ていることを告げておいたのだ。
彼はベッドに眠る小さな姫を見てどんな表情をしたのだろうか。
俯いた顔には、長めの髪がかかっていて清水がいる場所から確認することは出来なかった。
紫馬は慣れた手つきで姫を抱き上げた。
一瞬、姫の瞳が開くが相手が近しい人だと確認できたのだろう。
小さな腕を紫馬の首に回し、瞬く間に深い眠りに落ちていく。
視線だけで外に出るよう促された清水は、逆らうことなくそっと病室を抜け出した。
それは、大学時代の紫馬とはまるで別人のような鋭い光を放っているようにすら見え、微かに背中に何かが走る。
それでも、それに気づかないふりでリノリウムの冷たい床の上を歩いていく。
コツン、コツンと松葉杖をつく音が静まり返った廊下に思いのほか大きく響く。
それに比べ、都を大事な宝物でも抱えるようにその腕に抱いている紫馬は不自然なほどに足音ひとつ立てない。
この目で見なければ、気配すら感じないことに清水は密かに舌を巻く。
紫馬は、無遠慮に入り口前に横付けしてある黒塗りのリムジンに乗り込み
『来る?』
と、それまでの緊張感を台無しにするかのような軽い口調で清水に聞いた。
あの夜も、別世界を思わせるように月光が綺麗だった。
皆が寝静まった大部屋で、清水は薄いカーテンを開ける。
自分が寝るはずのベッドに横たわっているのは、疲れ果てたお姫様。
月明かりに照らされて、美しさがより際立っていた。
足音も立てずに、人影が近づいてくる。
大学時代の後輩である、紫馬だ。先ほど電話で娘が来ていることを告げておいたのだ。
彼はベッドに眠る小さな姫を見てどんな表情をしたのだろうか。
俯いた顔には、長めの髪がかかっていて清水がいる場所から確認することは出来なかった。
紫馬は慣れた手つきで姫を抱き上げた。
一瞬、姫の瞳が開くが相手が近しい人だと確認できたのだろう。
小さな腕を紫馬の首に回し、瞬く間に深い眠りに落ちていく。
視線だけで外に出るよう促された清水は、逆らうことなくそっと病室を抜け出した。
それは、大学時代の紫馬とはまるで別人のような鋭い光を放っているようにすら見え、微かに背中に何かが走る。
それでも、それに気づかないふりでリノリウムの冷たい床の上を歩いていく。
コツン、コツンと松葉杖をつく音が静まり返った廊下に思いのほか大きく響く。
それに比べ、都を大事な宝物でも抱えるようにその腕に抱いている紫馬は不自然なほどに足音ひとつ立てない。
この目で見なければ、気配すら感じないことに清水は密かに舌を巻く。
紫馬は、無遠慮に入り口前に横付けしてある黒塗りのリムジンに乗り込み
『来る?』
と、それまでの緊張感を台無しにするかのような軽い口調で清水に聞いた。