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グラスを傾けるたびに、氷の音がからからと響く。
静寂を愉しむかのように、二人。
黙って氷の音を聞いていた。

時折、氷の気泡から空気が出てぱちりぱちりと弾ける音まで聞こえるのだから、とてもここが都会の真ん中だとは思えないほどだった。

「案外さ」

何本も、煙草を灰にしてから紫馬が口を開く。

「今夜がチャンスだと思うんだけどね」

他人事のようなのんびりした口調。
剣呑な瞳が、緩やかに清水を見た。

「何が?」

「おや、それを俺から言わせるおつもり?
うすうす感じてはいたけれど、ヒデさんって案外エスだよねぇ」

おどけた口調で紫馬が言う。
そうして、唇を歪めて笑った。

「まぁ、いっか。
元に戻るチャンスってこと。
表の世界に。
折角一流大学出ているのにさ、一生ヤクザっていうのも、どうかと思うよ?」

と。
まるで自分が表世界の人間であるかのように、説教じみた風に切り出した。

「お前も、俺と同じ大学だろう」

しかも、俺は文学部だがお前は医学部だ、と。
自嘲気味に清水が笑う。