清水は安っぽい、ビニール製のソファーに腰を下ろす。この市民病院は不景気なのか、ケチなのか、まるでクッションがきいていなくて、これじゃソファーというよりイスだなあと、形の良い唇を苦笑で歪めた。
それにしても、少し歩いただけなのに、鉛でも付けられたかのように身体が重かった。

『ねえ、おじさん?』

都が変わらぬ口調で喋りかけるので、清水は緩やかに視線を向けた。

都は笑顔を浮かべたまま清水の耳に唇を寄せた。

『向こうから来る男、ナイフを握っているわ』

都の声は別人のように、鋭く響いた。
慌てて視線をやろうとする清水の首に、都はふざけてじゃれつく。


『見ない方がいいわ。病室に戻って、ね?ここは私に任せて』

清水は耳を疑った。

――ランドセルをかるった小学生の女の子に、俺が守られるなんて!


『ダメですよっ』

思わず鋭い声が出た。

都は目だけで睨むと、子供らしい声をあげる。

『え〜っ。ゲーム買ってくれるって言ったのに〜っ。
なんで、ダメっていうのおっ。
クラスの皆が持ってるんだよおっ!』


泣き声が滲んでいるその声は、ゲームをねだる子供そのもので、清水は呆気にとられた。


病院の退屈混じりの静寂が突然破られたことに気付いた看護師の一人が、怒り顔で近付いてきた。