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『おーじーさん☆』

静寂な時は子供らしい明るい声に簡単に破られる。清水は読みかけの本から目を上げた。

愛くるしい笑顔で、都が立っている。勿論、小学校指定の制服に、赤いランドセルなんて背負って。手にはチューリップの花束を持っている。
大部屋の病室の入り口に立ち、入室の許可を待っている様は、退屈を持て余している他の入院患者すらも笑顔にさせる。まるで天使だ。

清水は病室のベッドの上で軽く手をあげて応えて見せた。
傷もだいぶ回復してきた。明後日には退院の予定である。

『パパがお見舞いに行っても良いってやっと言ってくれたのよ』

都の声は病室に響く。

お小遣い少ないからこれしか買えなかったの、と、言い添えてチューリップの花束を渡す。

隣のベッドに横たわっているおばあさんなんて、涙腺が緩んでいるのか、その無邪気な一言に涙ぐんでいる。


『ありがとうございます』

清水は、しかし、子供相手には不自然なほどの堅い口調でそれを受け取り、

『少しお散歩しましょうか』

と、慣れない松葉杖を持って都を病室の外へと連れ出した。