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「今日はバカにおとなしいじゃない」

コンバーチブルのハンドルを片手で捌きながら、紫馬が言う。

「無口な方だと思うけど」

都と、そして紫馬に誘われてこの世界に入り、十年近い時が流れているという感慨に耽りながら、清水が言う。

沈黙は金――


社会人になって、身を持って実感した格言の一つを、彼は確実に守り続けてきた。

「たまの休みくらい、肩肘張るの止めれば良いのに。
倒れるよ?」

紫馬は無邪気という言葉がふさわしいほど、にこやかに笑う。
清水は、それを見ながら長い間自分が笑ってないことを思い出さずには居られなかった。

「倒れてもいいだろ、別に」

いつからここまで投げやりだったのだろうか。
もう、思い出せないくらい前から自分のことなんてどうでも良かったような気もする。

「そんなわけにはいかないよ。
ヒデさんはプリンセスのお気に入りだ。
もちろん、こんな半端モノの生活が止めたくなったらいつでも言ってくれ。
俺にだってそのくらいの力はあるさ」

唇に微笑を携えたままさらりと紫馬は言うと、駐車場に車を止めた。