清水は、形の良い眉を少しだけ歪め、そして微かにため息をつく。
他の言い回しは出来ないものか……

「誰かに聞かれたらどうするんですかっ」

夜通しこの邸の庭を警備しているチンピラは何人も居る。

「おや?
俺たちの間に誰かに聞かれて困るほど、やましい過去なんてあったっけ?」

紫馬がそらとぼけて答える。
カチンときた清水は、あえて涼しい瞳で口を開く。

「珍しくハイテンションですね。
都さんが朝帰りだからですか?」

紫馬が一瞬、表情を消した。
さすがにそこはツボだったのかと、清水は内心ほくそ笑む。

紫馬は大学時代の後輩だった。
医学部生とは思えないほど、フットワークが軽かった。
明るく、何をやらせてもソツなくこなし、ルックスも良い上に本人がプレイボーイでもあったので大層モテた。

いつ勉強をしているのか分からないほど、他学部の生徒と遊び歩いていた。

当時、まさか彼が極道の人間だとは知る由もなかった。

清水は当時、何をやっても上手く行かない冴えない学生だった。
もちろん、極道などとは無縁の一般人でもあった。

「どうせあの二人のことだから、今夜は深い仲にはならないよ」

それは、親としての心配からきた言葉なのか。
紫馬にしては珍しく殊勝な発言に、清水が顔をあげる。