ようやく目の前に広がる景色がアスファルト一色で無くなった清水は、身体の痛みを堪えながら、周りを見渡す。

ゴミのようにうつぶせに倒れている二人の青年。
アスファルトにじわじわとどす黒い血が広がり始めていた。

ジーンズにトレーナー、その上にジャケットを羽織っている紫馬。
同じく、ジーンズにパーカーを着ている利発そうな少年。
そうして。
愛らしい幾重にもなっている白いスカートに、ブラウスを着て、いまや残骸としか呼べないような元ウサギのぬいぐるみを未だ左手に抱いている少女。

心配そうに眉根に皺を寄せ、少女を見つめる少年に対し、少女はこぼれんばかりの笑顔を向けて褒めてと要求し続けていた。

少年と少女は、いつぞや大学のキャンパスで見かけた人と同一人物なのだろうと清水にも想像がついた。
子供の成長は著しいので、もう、あの頃とは随分違って見えるけれども。

『都ちゃん。
あとでパパがたぁっぷり褒めて上げるから、その物騒なものはここに置いてくれるかな?』

小さな右手に、不釣合いな拳銃を握っている都に対して、紫馬が優しい声音で言う。
凄惨な現場には似つかわしくないような、そう。ベッドでの睦み事を思わせるようなほどの、甘く優しい声音だ。

『はぁいっ☆』

都と呼ばれた美少女は無邪気としか言えない声を出し、こくりと頷くと、ぽいっと紙くずでも投げ捨てるようにトカレフを無造作に青年の――今は死体としかいえないおぞましい物体の――上に置いた。