会社から嘘の横領の罪で訴えられて首になって、現在訴訟中。
清水は、職安通いの日々を送っていた。

いつもと同じように職安に行った帰り道――

唐突に、暴漢に襲われ気づいたら路地に転がされていた、というわけだ。

ちらりと、大学時代の後輩、紫馬 宗太の顔が脳裏に浮かぶ。
何かあったら連絡をくれと言っていたが……。

この後、無事に電話出来るだろうか――


自分が吐いた、血反吐と胃酸の匂いにむかむかしてきた。

『そろそろヤっちゃおうぜ♪』

顔を踏みつけている少年とも青年ともとれる男が軽い口調で仲間に言う。

『そうだな。一人百万円かー♪』

もう一人もテンションが上がってきたようだ。
チャっと。
ナイフを取り出す音が小さく響く。

清水は愕然とした。


たった二百万円。
そんなんで、今、俺はこの世から抹殺されようとしているのか――


腹の底から怒りが沸き上がるが、殴られ続けた身体は微塵も動かない。

馬鹿馬鹿しくて、もう、指先すら動かない。



『ねぇ、おじさん。
マゾ?』