それは、都市伝説のようなものだった。
「ピンチになったとき、ウサギのぬいぐるみを持った女性が来たら助かる――」
どこの飲み屋で耳にしたくだらない噂かも忘れてしまった。
そんなことより。
今、自分の腹の上に乗っている黒い革靴がとてつもなく重い。
『うぐうううっ』
くぐもった声は、自分のものではないように苦しげに薄暗い路地に響く。
『くっ。
日本一の大学を卒業しても、この程度なのかよっ。
ざまぁねぇなっ』
あざ笑われているのは、自分のことなのか。
あまりにも唐突過ぎて、清水にはそれが理解が出来ないでいた。
分かるのは、切れた唇から流れる血の味と、踏みしめられている腹の痛みくらいなものだった。