部屋に戻って、洋服や、化粧品を片付けた。ゴミもひとまとめにして、ベランダに干しっ放しになっていた水着も、スーツケースの奥にしまい込んだ。そして、セーフティーボックスの中に入れていたパスポートとお金を確認して、手持ちのバッグに入れた。

 ガイとは、夕方の約束なのでそれまで、まだまだ時間がある。
 わたしは、一旦、荷物をドア付近にまとめて置いて、ホテル内を散歩することにした。プーケットへ来てからずっとここに滞在していたので、名残惜しい。
 外に出て、ブーゲンビレアの鉢植えがずらっと並ぶ庭を横切って、睡蓮の浮かぶ小さな池を見に行った。暑さのせいか、葉の色が薄く、元気なさげだ。それを見ていたら、急に暑さを感じて、わたしは、日陰を求めて、再び建物の影に入った。そういえば、と、わたしは、財布の中に入れっ放しになっていた、クラブハウスの入室証を探した。クラブハウスでは、飲み物や軽食をいただいたり、ビリヤードをやったり、インターネットをすることができるのだ。今まで、1度も入ることが無かったし、最後に入ってみようと思ったのだ。
 道に迷いながら、何とか辿り着いて、ものものしい雰囲気の、豪華なドアを押し開けた。ビリヤード室にも、インターネット室にも、誰もいない。サロンの方には、カップルが1組。わたしは、どこへ行こうか迷って、結局、インターネットをすることにした。ずっとメールチェックをしていないので、怖い気がするけれど、もうすぐ有給も切れる頃だし、心の準備をしておいた方がいいだろう。
 ドキドキしながら自分のメールを開いてみると。
 案の定、仕事のメールがたくさん溜まっている。しかも、最新のメールによると、今、自分の担当していたプロジェクトが危機にあるようだった。早急に帰ってこい、とある。思わず、小さな悲鳴を漏らした。これじゃぁ、本当に、近々、しかもかなり近々、帰らなくてはならない。……ひょっとすると、明日か、明後日には。
 反射的に、ジルを思い出した。
 ーー帰りたくない。