シャワーを浴びて、お水を飲んで、ベッドに横になってみた。
 でも、ゆっくり休めるような気分じゃなかった。
 ウエルカムフルーツも、シャンパンも用意してあるものの、それらに手を伸ばすような気分にもなれず。部屋はとても居心地がいいというのに、何だか、気がそぞろ。
 時計を見た。
 さっきから、5分しか経っていない。
 ジルは、いつ帰って来るのだろうか。
 何だか、強烈に、ジルが恋しい。甘えている、のかもしれない。
 そんな自分を振り切るように、ぶんぶん、と首を横に振って、ふぅーっと、長く息を吐いた。そして、思い切って、外に出ることにした。自分のホテルへ、戻ってみようと思ったのだ。

 恐る恐るロビーを覗いてから、マサユキが居ないことを確認して、カウンターでキーを受け取った。空かさずガイが近づいて来て、あの人懐っこい笑顔で、オハヨウゴザイマス、と言った。
「今朝は、体調でも……?」
 きっと、朝食のときに、姿を現さなかったことを言っているのだろう。わたしは慌てて微笑むと、
「今朝は、友人と外で朝食を食べて来たの。あと……ちょっとお願いがあるんだけど」
「何なりと」
 わたしは、今までとても親切にしてもらった彼には言い難かったけれど、このホテルをチェックアウトして、別のホテルへ移ること、を伝えた。けれど彼は、変わらず笑顔で、快く、手続きを手伝ってくれると約束してくれた。
「荷物はどうします? 僕が、新しいホテルの方へ運ぶように手配しましょうか」
「そうしてくれると、とても助かるけど、でも……」
「僕がそうしたいんです、甘えて下さい」
 わたしは、彼の『マイペンライ』な笑顔に、素直にお願いすることにした。確かに、スーツケースを持って、トゥクトゥクに乗り込むのも気が引ける。