朝食を食べ終えると、ジルは、突然、頬を寄せて、
「よかったら、使って」
 と言いながら、キーを寄越した。
 そのキーは、ジルが、さっきカウンターでもらっていたものだった。ジルの部屋のものだと思っていたけれど、違うのだろうか。
「……これ?」
「多分、自分の部屋に戻り辛いんじゃないかと思って。一時避難用の部屋、だよ。僕が借りてる部屋の一つだから、気兼ねなく使ってくれればいいよ」
「シェルター、みたいなもの?」
「……そう。そんなようなもの。……もちろん、僕の部屋とは別だから、安心して」
 でも、いいのだろうか。
 部屋まで用意してもらって。
 それにしても、『借りてる部屋の1つ』って……? 幾つも部屋を借りてるのだろうか? 一体、どういうことなのだろう? 彼は、何者なのだろう。
「……ありがとう」
 確かに助かるし、興味もあって、わたしは、素直にお礼を言って、鍵を受け取った。