ふと身の回りを見回してみる。
 わたしを追う人影は、見当たらない。
 どうやら、マサユキも、わたしを捜すのを諦めてくれたようだ。いや、もしかしたら、ホテルのロビーで待ち伏せているのかもしれない。
 そう思うと、今からホテルへ戻るのも気が進まない。今夜は、戻らない方がいいのかもしれない。でも、だったら、どこに居ればいいのだろう?
 道路を振り返ってみた。トゥクトゥクが居れば、バングラ通り(パトンの中心部)まで出て、gardensなり、他の安全そうなバーなり、に、身を寄せるとか。でも、幾ら何でも、朝まで、は無理だろう。店が閉まったら、その後は、コンビニとか? ーー考えただけで、さらに疲れが襲ってくる。ついでに、眠気も。いっそのこと、この寝椅子で眠ってしまいたかった。でも、そう言う訳にもいかないだろう。
 重い体を引きずるように、何とか、道路まで上がると、トゥクトゥクの姿を探す。
 けれど、こういう時に限って、1台もそこに停まっていない。それに、ふと、自分がほとんどお金を持っていないことにも、気付いた。こんなことでは、朝までホテルに戻らずにいるだなんて、できっこない。
 マサユキが居ないことを願いながら、ホテルに戻るか、ビーチで一夜を過ごすか。
 どちらもリスクがあるような気がする。けれど、どうしても、マサユキには再び会いたくない。
 しばらく考えて、わたしは、また再び、ビーチに舞い戻った。そして、一番陸側の寝椅子に、座った。背もたれに、体を預ける。意外と気持ちがよかった。そよそよと、ちょうどいいぐらいの風が吹いて、適度に温かい。これで、バスタオルの1枚でもあったら、最高なんだけど……と思いながら、サンダルを地面に脱ぎ捨てた。
 と、その瞬間、抗い難い、強烈な睡魔が襲って来て、わたしは、無抵抗のまま、素直にその波にさらわれることにした。