目の前に広がる、漆黒の水面が、たぷたぷ、ざざーっ、といいながら、所々が、エメラルド色に輝く。その輝く波が弾けたと思ったら、今度は、それが淡い光のツブツブになって、広がりながら散らばっていくのだ。
 と、唐突に、ジルのことを思い出した。
 この光景を、ジルと一緒に、見れるはずだったのだ。
 あのジルの手の感触を思い出すと、胸が、きゅうっと縮こまるような感じがした。
 波の音が、さらに大きく聞こえる。
 潮が、だいぶ満ちてきているようだった。辺りを見回すと、人影も、いつの間にか、まばらになってきている。わたしは、さっきの寝椅子に戻ってサンダルを履くと、再び、海の方を見た。まだ、光っている。しかも、時を追う毎に、それは輝きを増しているかのようだった。何だか立ち去り難くなって、またそこでも、じっと、海を見詰めていた。
 このビーチは、パトンの中心部から少し離れたところにあることもあって、とても静かだ。喧噪も聞こえなければ、ネオンの灯りがこぼれ落ちてくることもない。ここには、波の音と、月と、水面と、そして、今は夜光虫のエメラルドグリーンと、ほんの少しの囁き声と。それらがあるだけだった。
 とても静かな気持ちになって、わたしは、ほっと息をついた。