さっきから、かなりのペースで飲んでいるのに、ほとんど酔ったように見えない。
 わたしは、再びポテトに手をつけながら、うっかり手についてしまったケチャップを、そっと舐めた。
「この間の夜……」
 と、ジルが、突然話し始めた。わたしは、口をもぐもぐさせたまま、慌てて、ジルの方を見た。
「街で君を見かけて、跡をつけたんだ」
 この間の夜……。あの、ゴーゴーバーへ行った日だ。そして、ジルが、そのバーに現れた日……。わたしの、跡を……?
「……え?」
 目を丸くしていると、ジルは、クスクス笑いながら、マッチ箱をテーブルに置いて、それをトントン、と指で叩いた。
「これが、gardens。で……」
 そして、コースターを、ちょっと離れた場所に置くと、
「こっちが、ゴーゴーバー。つまり、君たちが足早にそっちへ行くのを、ずっと追ってたんだよ」
 そう言いながら、道筋を、指でなぞった。
「どう……して?」
「珍しかったから、さ。君が、友達らしき人と一緒の時に会ったことが無かったのに、あの日は、連れ立っていた。ココには、タチの悪い犯罪も多いし、何かに巻き込まれたら大変だ、と思って」
「……」
 わたしは、信じられない思いで、じっとジルを見詰めた。そんな風に、わたしを心配していただなんて。
「驚いたよ。君たちが、あまりに簡単にあの店に入って行くから。君たちみたいな若いグループだったら、普通は、呼び込みに最初掴まって、何だかんだと口車に乗って、つい入ってしまう、ような場所だろ? それが、最初から、そのつもりだった、っていう素振りで」