わたしは、空腹感に耐えかねて、素早く手を出してしまった。ポテトをぱくっと一口かじったところで、ハッと我に返ってジルを見た。けれど彼は、わたしの方なんて全然見ていなくて。いつの間にか来ていた、新しいビールを傾けながら、じっと前の方を見詰めていた。わたしは、ポテトにぱくつきながら、そのジルの瞳に釘付けになっていた。正確には、彼の瞳の色に。ブルーでも、グレーでも、グリーンでもブラウンでもない、不思議な色をしている。頬に落ちる真っすぐな髪も、ブラウンでもなく、グレーでもなく、ブロンドでもない、微妙な色合いだった。
 この人は、一体、どこからどうやってこの地に落ち着いているのだろう、と、思いを馳せずにはいられなかった。もちろん、コンタクトやヘアダイだってあるこのご時世、その可能性も大いにある(というか、天然よりもその可能性の方が高い)けれど、そんなことをいちいち考えたら、興ざめだろう。
「ウイコさん?」
 いきなり背後から、そう呼ばれて、思わず、ポテトを喉に詰まらせた。
 ごほごほと咳き込むと、ジルが、自分のビールをわたしに寄越す。
 そして、わたしの代わりに振り返ると、
「……あぁ、君は、この間の」
「ええ、ウイコさんにあの日は会えなかったんですね」
「うん。今日も会えないところだった」
 と、声の主の相手までしてくれている。わたしは、ビールを飲んでようやく落ち着いたところで、振り返ると、そこには、アキとカイジが居た。腕を組んで、アキの方は少し頬を紅くしている。飲んで、帰るところといった感じ。思わずわたしは、微笑んだ。
「二人で、部屋に帰るところ?」
 と、何気なく訊いた。と、ジルが、二人に気付かれないように、肘でわたしを突く。わたしは、何となくいけないことを言ったということに気付いて、思わず口をつぐんだ。
「まぁ……これから、ちょっと酔い覚ましに散歩でも、と思って」
「……そうなんだ。夜光虫が綺麗かもしれないよ。でも……、気をつけて」
 ジルはさらっとそう言うと、また向き直って、わたしの手からビールを奪った。
 そして、彼女達が出て行ってから、こそっと、
「あの二人では、部屋に帰れないと思うけど?」
 と、言った。
「……どういう……」
 と言いかけて、わたしは、やっと、彼のその意味に気がつく。