たった、それだけで出て来てしまったというのだ。そのことに今更ながら気がついて、そんな自分に呆れてしまう。一体、どうするつもりなのだろう。ここまで来て、それから? この、目の前のgardensに来れば、いつでも彼が居るとでも?
 わたしは、とりあえず、無理矢理にでも気を取り直す必要があった。
 (賑やかさに惑わされて、とても夜中だなんて思えないとしても)こんな真夜中に、前後不覚な表情をして、道ばたに1人、佇んでいるわけにはいかないのだ。
 1つ、咳払いをして、わたしは、歩を進めた。
 今日は、ピアノの音が聞こえない。
 芝生の庭を通り抜け、ドアを開ける。
 と、この間も居た、オカマちゃんのウエイターが居た。
 彼の方もわたしに気がついて、キーッ、という表情をする。
 何だか、くじけそうでもあり、何故か、勇気づけられもして、複雑な心境。
「メイ、アイ、ヘルプ、ユー?」
 タイ語訛りの英語で、彼は、そう言った。日本語だって、できるくせに。腰は、くねくね、させている。この間と同じように。
「あ、あの、すいません、食べるとか飲むとかじゃないんです」
 思わず、小さくなりながら、そう言った。
 フン、と、彼は鼻を鳴らして、厨房の方に向かって、タイ語で何やら言っている。見回すと、お客は、1組ぐらいで、他には居ない。外の喧噪が、嘘のようだ。この時間、流行るのは、バーとか、ディスコとか、そういったところなのだろうか。