今、目の前に晒されている裸の上半身は、思った以上に逞しかった。肩幅も広く、胸板も厚く、厭味でない適度に、陽に灼けている。そう、例えるなら、ミルクが多めの、カフェオレのような色。それでいて、手足は細長くて、締まっている。肌も、すごくきれいだ。やはり、『そっちのケ』があるのではないだろうか、と本気で考えた。
「この隣、空いてる?」
 彼は、すぐ隣の寝椅子を指して、そう訊いた。わたしは、ぼうっと彼の裸に見とれながら、こくんと頷いて、彼が、走って自分の荷物を取りに行くのを目で追った。彼の元々の寝椅子は意外と近かったようで、すぐに戻ってくると、2つの寝椅子の間にある木の箱に荷物を置いて、ハンガーに掛かったままの、麻のような素材のサファリシャツを、パラソルの骨組みに引っ掛けた。カシン、と、乾いた金属音が小さく響く。
 タオルで体を拭きながら、彼は、雨の降り続くビーチを見遣った。そして、頭からタオルを被ると、小さくため息をつく。
「……来たばかりだったのに」
「わたしも」
「ーー知ってる」
「え?」
「ショッピング行くような格好で寝椅子に寝てたら、嫌でも目を惹くさ」
 微笑む彼の前で、わたしは、思わず頬に朱を昇らせた。もしかしたら、風にスカートを弄ばれた瞬間を、見られていたかもしれない。でも、まさか。大丈夫、考え過ぎだろう。勝手に自分の中で無理矢理完結させて、わたしは、肩をすくめた。
「これは、今日しばらく降り続くな……」
「そうみたいね」
 よく知らないくせに、知ったかぶりで、思わずそう答えてしまった。格好をつけた、というよりも、会話が続くように背伸びしてしまった、という感じ。それにしても、と、わたしは、自分の腕を擦った。急に太陽が遮られて、本当に寒く感じる。足下に掛けてあるカーディガンを着てもいいけれど、また突風が吹いたらと思うと気が気ではない。
「……!?」
 そのとき、肩に、何かが掛けられたのを感じて、思わず、体を見下ろした。