体勢を変えながら、ふと目を開けると、いつの間にか、心の傾き具合によく似た、どんよりとした雲が、空に広がっていた。スコールが来るのだろうか。それにしては、何だか、時間が早い気がする。降り続かないといいけど。
 そう思った次の瞬間、真っ白の砂に、チャコール色の点が、ポツポツと現れ始めた。そしてそれは、あっという間に砂浜を埋め尽くしていく。雨粒が海面を弾いているさまが、はっきりとわかるほど、強い雨。さっきまで海で泳いでいた人達が、一斉に、パラソルの方へ戻って来た。とはいえ、この頭上にあって雨から護ってくれているパラソルだって、木綿でできているようなのだ。日除けにはなっても、長時間の雨よけにはならないのではないだろうか。不安げに見上げながら、わたしは、足を自分の方へ曲げ、たぐり寄せた。できるだけパラソルの中心の方へ寄って、雨がかからないように注意した。むき出しの肩には、鳥肌が立っている。雨が降り出すと、急に体感気温が下がるようだった。スカートを足に絡ませるようにして広がらないようにしてから、わたしは、自分の体を抱きしめた。 
 そうしながら、人気もなく、ジェットスキーが置き去りになった砂浜を、何気なく見詰めていると、突然目の前に、水着姿の男が現れた。
「やあ」
 一瞬、誰だか分からなかった。けれど、声と、上手な日本語で、昨夜の男だとすぐに気付いた。あ、と短く答えるわたし。
 髪を後ろで束ねているので、最初、ピンとこなかったのだ。それに、昨夜の彼のイメージからは想像もつかない裸をしている。レストランで垣間見た、あの優雅な仕草や細やかな心遣いから、わたしは、彼を勝手に痩せ形の女性っぽい人だと勘違いしていた。これって、イメージが視覚に及ぼす影響力というものだろうか。それとも、わたしの見る目が、やはり、全然無いっていうだけのハナシだろうか。