シャワーを浴びて、バスローブを着て、静まり返った部屋にじっとしていたら、何だか、怖くなってきてしまった。
ついさっき、そこの部屋の前で、彼と別れたばかりだというのに。
しかも、ここで、一人きりの夜を何日も越えてきたというのに。
なのに、急激に、物悲しくなってきてしまったのだ。
人肌恋しい、という気持ち、こんな感じなのだろうか。
それとも、別れ際に彼に忠告されたことが、効いているのだろうか。
さっき、ドアを閉めた時に確認しているのに、ドアの鍵とチェーンが閉まっているかどうか、もう一度見てみる。
ーー大丈夫。
少しホッとして、冷蔵庫から、飲みかけのワインを出すと、グラスに、コポコポと注いだ。
飲みかけの赤ワインって、大好きだ。
酸素に触れ合っているから、真新しい、尖った味がしない。
まろやかで、微かに酸味があって。思わず、ごくごくと飲めてしまうのも、いい。空っぽの胃のタンクに、どんどんワインが染みて行って、そして、ネガティブ・マインドが解きほぐされ、どんどん、ふわふわと柔らかくなっていく。
赤の、この色も好き。
わたしは、窓に面したダイニングテーブルで、ワインを楽しみながら、いつの間にか、そこで、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。

翌朝は、コーヒー、クロワッサンとチーズ、温めたロールパンにバター、プレーンオムレツにチキンソーセージ、それにケチャップをたっぷり掛けて、シリアルとヨーグルトまで食べた。
生の野菜とフルーツは、念のため、此所に来てからずっと口にしていない。
というのも、胃腸が弱い方だという自覚があるからだ。せっかくのバカンスを、フルーツや生野菜のために、たった半日たりとも棒に振るなんてできない。

コーヒーのお替わりを飲みながら、テラスの席で、わたしは、遠くに見えるエメラルドの海を、見詰めていた。
何て幸せなのだろう、と、この客観的に見たら無駄なように見える、貴重な時間の意味を噛み締めながら。その海は、昨晩見た漆黒の、白い泡を寄せては返す海とは、別人格を持っているように見えた。
その海の方から、温い風が吹き上げてくる。