「オッサン、この子にふざけた真似さらすとしばくぞ」


押し殺した、でも厳しい声がした。
膝の上で動き回っていた手が止まる。


振り返ると、
…山浪君だった。


声の主が花巻くんでなかった寂しい気持ちと、ホッとした気持ちが入り交じり
私は身をよじって避けた。


私の反対側に座っていた年配の女の人が気が付いて


「痴漢よ痴漢よ!」


と騒ぎ出したので
映画が中断するような大騒ぎになった。


花巻君はそうなってやっと気付いたみたいだった。


騒ぎが落ち着いて3人だけになると


「毅、なんで気付いたの?」


と花巻君が聞いた。


「瀧澤一人で座らせたのが申し訳なくてチラチラ見てたら泣いてんだもん、こりゃなんかあると思って見に行ったら…」


私を気遣う様に言葉を選びながら、最後は口ごもっていた。


…山浪君てこんな人だったんだね。


「…ありがとう、分かってくれて」
いろいろを、ね。