始業のベルがなっても純と瀧澤は現れなかった。


朝礼後、担任に


「あの、花巻と瀧澤…」

と声をかけると、手招きされた。

「花巻からお前だけに伝言だ。…瀧澤のお母さんが入院して、二人で付き添ってる。携帯は使えないから、直接来て欲しい。病院は…」


「先生、ボクにそんな話をしてくださったのは、サボリ許可と受け止めていいですか?」


先生は返事をしなかった。3日と空けずに呼び出され、
相性が悪いと思っていた担任と
心が通じた瞬間だった。


「私からもお大事にと伝えてくれ。…瀧澤には待ってると、な」


ボクは親指を立てて、担任にサインを送ると、そのまま学校を飛び出した。


純、瀧澤に付き添って今まで病院にいたのか…


自転車がきしむほど激しくこいだ。


緩やかな坂道を昇り詰めると、病院に着くのに、こいでも、こいでも到着しない。


やっと病室に駆け込むと、純と瀧澤が廊下のベンチの前に並んで立っていた、手を繋いで。


「瀧澤!純!」


「毅」
「毅くん」


瀧澤の目は赤く腫れぼったく、丸で別人のような憔悴ぶりだった。

「今、黄疸が出て、検査してるの待ってるとこ」

「瀧澤、大丈夫か?な訳ないな」

「うん、今日は大丈夫」


「二人とも寝てないでしょ?ボクがついてるから、仮眠しなさい」


純は情けない顔で泣き出した。


「紀子、寝てくれよ、オレと毅と順番についてるから」


瀧澤は何度も気絶しては、休まず付き添ってるらしい。
純は瀧澤を抱き抱えながら、無理矢理座らせた。
純に羽交い締めにされても、しばらくもがいていたが、そのうち、純の腕の中で肩にもたれたまま眠り出した。


「純も寝なさい」


「…毅…オレ…お前に相談したいことがあって…」


「まずは寝なさい」


悪態をつきながらだったけど、純も瀧澤にもたれ掛かるように眠った。