花巻くんが口をへの字にしていた。唇が震えてる。


我慢しなくちゃいけない涙が、私の目の縁にゆらゆら揺れ出した。


お願い。
花巻くん、泣かないで。


祈るような姿勢でいた花巻くんの指に涙が伝う。


思いを吹っ切れない私のように、涙は途切れなかった。


私は花巻くんの濡れた拳を両手で覆うように、そっと握った。


花巻くんは私の掌ごと、自分の顔に更に強く押し付けて、
声もなく泣いていた。


付き合っている時でさえなかった、私達の一体感に、充達した、ある種の陶酔めいた不思議なつながりを覚えた。


この人の全ては愛しいもので出来ている。


浮気されても、フラれても、この愛しさは変わることはあるまい。


無償の愛があるとしたら、私の花巻くんへの思いは
もしかしたらそれに近い。


「花巻くん、泣かないで」


「ごめん、ごめんな」


「謝らないで。…仕方がないんだよ、私達。タイミングが悪すぎただけ」


「紀子」


「ほら、ハンカチ使って」


花巻くんは素直に、私が差し出したハンカチを使った。
涙で目が赤い。
潤んだ瞳が私を見つめて、何かを訴えてる。
…愛以外の何か。


「オレ、紀子にいろいろ話したかったし、きちんと謝りたかった」


「私も、花巻くんと話したかった。素直になれなくてごめんね。…もし、もしまだチャンスがあるなら、やり直したいの」


びっくりしたような花巻くんの顔。その驚きが私にとっていい意味を持っていますように。


毅くんに言われてたように、
やっと素直になったんだから。
勇気を出して。



「オレ…」



お願い。

お願い。

お願い。





YESと言って。