ホテルのエントランスから向かってくるのは…間違いなく嶋村さんだった。


「来てくれたんですね」


「…は、はい…」


なんとなく雰囲気にのまれてしまって歯切れの悪い返事をしてしまう。


今日の嶋村さんは、いつものサラリーマンらしい格好ではなく、


仕立ての良い黒いスーツをビシッと着こなし、髪もいつもみたいに寝癖を適当に直したかんじではなくて、きちんとセットしていた。


―――…ほんの一瞬、ドキッとしてしまったが、すぐに気のせいだと自分に言い聞かせる。


…雰囲気に酔ってるだけだ。


ドキドキするなんて、アリエナイ、ぜーったいアリエナイッッ!!!


「…ほんとに来てもらえるとは思っていなかったので…嬉しいです…」


嶋村さんが頬をほんのり赤くして微笑んだ。





………う゛……





そんなふうに正面きって言われると、断ろうとしてた自分が嫌なヤツに思えてくる…。





「…あ、あの…しまむらさ―――」


「嶋村さんっっっ」


呼び声とともに、スーツ姿の綺麗な女性が急いでやってきた。