フリーペーパーを渡した翌日、ついに会話がつながった。


インタラクティブに。



「ちょうどお店探してたんで、あの雑誌の中のレストラン、予約しちゃいました。ありがとうございました。」


「えっ、あ、そうですか。それはよかったです。」


「これ、お礼です。」


手渡されたSバックスの手提げの紙袋には、いつものコーヒーカップと一緒に、Sバックスのクッキーの袋が入っていた。

そして小さなカードも。



「いつもありがとうございます。お仕事がんばってください。吉村紀子」



その日から、山木の頭の中は、次の「シナリオ」づくりに向かってフル回転した。




ここからとりあえず「食事」まで、自然に発展させてゆくにはどうするか。

まずは吉村紀子のメールアドレスをゲットしたい。勝負はそこからだ。

しかしいきなりカウンター越しにアドレスを尋ねたりするのは愚の骨頂だと思う。特に急いでいる訳でもないし。

ただこのクリスマスシーズンをうまく使いたい。







そうだ、「店」だ。



そもそものキッカケはフリーペーパーであり、そこに出ていた店が彼女の目に留まった。

ん?もしくはオレとの会話を続けるためにそれを利用した・・・?

え、もしかしてこれは向こうのシナリオか?



まさかそんなはずはない。



オレはイケメンでもないし、昔から女性にもてるタイプでなない。

オレが女性から面と向かって気持ちを伝えられたのは、32年間でたった一度しかない。




大学4年の時にアルバイトをしていた塾のクラスにいた小学6年の女子から、



「山木先生、私、オトナになったら必ず先生の前に現れます。

その時は、結婚を前提に付き合ってください。

絶対約束ですよ。」



と言われ、オレの最後の授業の日には、腕を組んで写真を撮らされた。





そしてその時は、「わかった、わかった」と言って指切りをした記憶がある。