吉村紀子は、オレがほぼ毎朝立ち寄ってコーヒーを買う、

会社の近くのSバックスの店員だ。


最近顔をよく見るようになった。新人だろうか。


地味だが笑顔が明るいので、

朝、顔を見ると気持ちが前向きになる。

特にチャボウズから難題を吹っかけられて行き詰っている朝は、かなり役に立つ。

でもシフトのせいか木曜と金曜はいないのでちょっと困る。




そしてこのなんでもないコーヒーショップの店員と客の関係が、

こうしてメールの返信を待つところまで来た。



これもある部分、常にインタラクティブなプロモーションアイデアを考えている余禄かもしれない。





それは確かに偶然だった。




その日Sバックスへ向かう道の手前で手渡されたフリーペーパーは、


「クリスマス&忘年会用レストラン特集」だった。


サンタクロースの赤いトンガリ帽をかぶった女子大生らしきギャルが、


10メートルも手前からオレを待ち構えていたので、しかたなく受け取ってしまった。



彼女が、うりざね顔の、ちょっとタレントの誰かに似たかわいい子だったこともあるが・・・




オレはそのフリーペーパーを手に持ったまま、

Sバックスでいつものように「ショートドリップ」を頼み、

財布を出そうと思ったが、このフリーペーパーがじゃまだったので、思わず、



「これ、あげます。」



と言ってカウンター越しに差し出してしまった。





毎朝軽く会釈だけはするが、彼女とはこれがコーヒーの注文以外で初めての会話だった。



そしてこの会話が意外な方向に展開した。


そしてそこにオレのちょっとした「シナリオ」が加わって、


こうして大晦日に彼女のメールを待つところまでたどり着いた。