「でもなんでこんなに長く待ったの?10年も。」


「私、自分で言った、《オトナになったら》、のひと言にしばられて・・・

私って、いつからオトナなの?

山木先生の前に、オトナになった恭子ですって、いつ出られるんだろう?

ってずっと悩んでいたんです。」


「実は2年前のきょう、自分の成人式の帰りに、

よし、きょうからオトナだって思って、山木さんの会社の前まで来ちゃったんです。着物着たまま。

実はその頃山木さんがCMの仕事で、有名な女優さんと仲がいいって話を先輩から聞いて焦ってしまって。」


ああ、確かにそんな話もあった。チャボウズの作り話だが。


「そしたら偶然にも山木さんが、Sバックスからコーヒーを持って出て来たんです。

携帯電話で何か難しいお仕事の話をしているのを見て、思わず隠れました。」


「その時、ああ、まだまだだ、私が山木さんの前に出るのは、

そう思ってそれからは勉強に励みました。

そして去年の夏に就職も決まって、この4月から社会人、てなった時に、

よし、ことしの成人の日を私のオトナ記念日にしようって決めました。」


なんだ、「きょう」という日も決められていた。


「それから計画を練って、11月になった頃に姉にSバックスで働いてもらうことにしました。

6年生の時に撮った山木さんの写真を見せて、山木さんの来る時間に合わせた勤務シフトにしてもらって、チャンスを待ちました。

でも姉はご主人と順番に娘を朝保育園に連れて行くので、木曜と金曜は来られませんでした。」


本当のコンタクトポイントは「JJ」ではなかった。


「でもなんでそんな複雑な仕掛けを?普通に声を掛けてくれてもよかったのに。」


「あの、私も、釜井ゼミの端くれです。」



ラッキョウが勝ち誇ったように言った。




「シナリオに、《驚き》がなければ、人は動かせない。」