「山木先生、私との約束は覚えてますか?指切り、しましたよね?」



《私、オトナになったら必ず先生の前に現れます。

その時は、結婚を前提に付き合ってください。

絶対約束ですよ。》



10年前のラッキョウの言葉がよみがえった。


「でもどうしてここに・・・」



オレは頭が混乱して、何も考えられなかった。

ひとつだけ言えるのは、

これはオレのシナリオではなかった。

でもいつから?




それから恭子が話したことは、オレの企画マンとしての自信を打ち砕くのに充分過ぎるストーリーだった。

「私、中学、高校に行っても、とにかく山木さんと同じ大学、同じゼミに入ることを目指しました。

実はいま釜井ゼミの4回生です。

そうすれば同窓会名簿や先輩たちの話で山木さんの居所もわかるし、情報がつかめると思って。

とにかく結婚しないでって10年間祈ってました。」



オレは何も言えず、ただ聞いているだけだった。

でも姉の紀子はなぜ?



「姉は、私が頼んであの店にパートで働いてもらっています。

ちょうど家も近くで、姉は主婦ですから、昼間は時間があるんです。」



なんていうことだ。いま気が付いたが、だから苗字が違うのか。



ますます敗北感が体中を駆け巡った。




そんなオレの気持ちを察したのか、紀子が立ち上がった。


「私はもう必要ないですね。

夕飯の支度があるのでお先に失礼します。

山木さん、少しだけだましてすみませんでした。

妹の気持ちがいじらしくて。

よろしくお願いします。」



と言ってそそくさと帰ってしまった。

なにが、「よろしく」、なんだろう。