1月12日の昼間、会社で新しい企画書づくりに没頭していると、三浦から興奮した声で電話が掛かってきた。


「すごいぞ、ヤマジョー。大当たりだ。みんなここでメールしてる。

しかし最近の若いヤツはなんでこんなに恋愛に飢えてるんだ?信じられん。」

「さすが仕掛け人、三浦だな。みんなオマエみたいにモテないのさ。」


「神社の周辺の店もすごい混雑だ。参道の下の和菓子茶屋に行列ができてる。

突然の大入りでビックリだろうな。

あれ?いまチャボウズが入っていった。

のんきなヤツだなあ。」

「なんかうまそうな日本茶でも見つけたんじゃないか。ハハハ」


そういえばこの神社を提案したのはチャボウズだった。

もしかするとチャボウズは最初からその茶屋を知ってて今回のイベント立合いに手を挙げたのかも知れない。




夕方6時。オレは久しぶりにこの駅に降り立った。

大学卒業以来10年ぶりだ。

町並みもそれほど変わっていない。

きょうは祝日で、学生もいないのでなんとなく静かだ。


そのレストランも入口のつくりは全く変わっていなかった。

ドアを開けると、一番奥のテーブルに女性が二人座っているのが見えた。



吉村紀子が手を挙げた。



「どうも、わざわざすみません。お仕事だったのに。」

吉村紀子が立ち上がって声を掛けてきた。

「いえいえ、こちらこそ、私が最初に誘ったのにすみません。」


「あ、妹の恭子です。」


隣の、吉村紀子よりやや背の低い女性が軽く会釈をした。


あれ?どこか見覚えがある。誰だろう?


「山木さん、山木先生、お忘れですか?お久しぶりです。河村恭子です。ラッキョウ、です。」

「あっ」

と言ったまま、オレは呆然と立ち尽くした。


あの小学6年生のラッキョウが、オレの前に立っていた。