絶対嘘だ。

嫌いな人のために、そこまで泣けはしない。

サエは、基本的にあまり人を嫌わない。

どんなに理不尽な目にあっても気付かないし、嫌味を嫌味として受けない。


解りやすい話、サエはお人好し。


どんなに口で嫌いと言っても、同時に流れた涙が嘘だと云っている。


ぼくもサエも人間だ。救いが欲しい事もある。



時に人は救いを求め、心配してくれる人に事実に脚色を加えた話をして助けたいと思わせる魔性がある。


ぼくもサエも、そこまで器用にはなれなかった。


特にサエは、怖いのだ。

皆、母親みたいに



甘えるな



と突き放すのではないか、と不安なのだ。



「嫌いならさ、別に悲しくないんじゃ?」


「むぅ…………」



答えに迷ったのか、サエはムスッとした顔で黙りこんでしまった。


何時もの笑顔は、さっきから一つも見ていない。

あの笑ってるだけの、空っぽな笑顔は。



本当は笑顔を作るよりも泣く事の方が上手だから、こうしてグズグズ泣いてる方がサエらしい。



「じゃあさ、サエが必要とする人って誰?」