「さすが医者夫婦の息子。続けて」


「………なんとかついて行ってます」


「クロが呪文言ってる」


「ゴメン、サエ。後でちゃんと解りやすく説明する」


「え、日本語だった?」


「…………」



これは、わざとか本気か解らないな……。

まあ、気にしないことにして、ぼくは話を進めた。



「死因はそれだけで十分だったはずです。もし意識があったら、しばらく暴れたりするかも知れない」


「でも、あの出血なら直ぐに失血死するね」


「そうなんですよ。なのに、更に腹部を刺し手首を回して、周辺の内臓をほとんど破壊って、やりすぎです」



北村さんは、感心した様にぼくを見た。

どうやら此処まで詳しく言うとは思わなかったみたいだ。



「なるほどね。もし先に刺したとしても、その後殴らなくても死んだだろうし……、君のお父さんなら、そこまで酷いことできるのか疑問だわ」



父さんは心療内科の先生、まぁ精神科医なわけだが、きっと沢山の病人を診てる。

人が苦しむ様も、人が目の前で死んでく辛さもよく知ってると思う。


だからこそ、殺すならあまり苦しませない様にするはずだ。



絶対に、父さんは殺してない。

そう思うのは、医者としての父さんも知ってるし、夫としての父さんも知ってるからだ。


ぼくが見ても解るくらい、父さんは母さんを愛している。

母さんも父さんを愛している。

殺せないはずだ。

だから、絶対に母さんを殺してない。


愛している人を殺す事がどんなに辛く苦しい事か、ぼくには解らないけど、きっとすごく大きな何かを失うんだと思う。


遺されたぼくも含め、大切な人は傷付けない。

それがぼくの父さんなんだ。



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