ひとつ、両親の自分を見るあの目。
ひとつ、一人ぼっちが悲しかったあの暗い夜。

ひとつひとつ、泣きたかった。
けどひとつひとつ、今の自分を作り上げた。


今の自分に、こんなに必死になってくれる人が居る。


北村さんの手を、改めて包み込むように握りなおすと、北村さんは少しびっくりした様子で顔を上げ、また目が合った瞬間うつ向きました。

どうやら彼女は富士原さんの目の位置を覚えたみたいですね。



「………北村さん?」


「…………」



北村さんはシカトします。



「ねぇ」


「…………」



北村さんはシカトします。



「順子」


「名前で呼ぶな! ―――ってか呼び捨てすんなカバ!!」


「カバ!?」


「カバ!! カバカバカバカバカ………バカ!」


「もぅ、照れちゃって」


「るせェ!!」



巻き舌で怒鳴られても全く笑顔を崩さない富士原さんでした。


内心、半分泣きそうでした。


今まで逢う人、一人一人を拒絶して、皆も同じ様に自分を拒絶し、一生このまま誰かから嫌われながら死んでいくものだと思ってました。


それが間違った事だと気付かせてくれたのは、北村さんです。



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