富士原さんは座ってやっとこさ気付きました。



(………ん?)



さっき座ってた時よりも順子が、いや北村さんが近いのです。

富士原さんは無意識にさっきの毛布を膝の、というかもっと下腹部に近い辺りに押し付ける様に乗せました。―――本当、気持ちは痛い程解るよ。



それについては全く目もくれず、北村さんはソファの上で、富士原さんの方を向いて正座します。


二つの膝が彼の右股にやんわりと当たる距離です。



「な、な、……なんですか」


「許さんぞ!」


「え!? ―――ゴメンなさいでアリマス!!」


「やだ!」



北村さんは、怒ってました。

眉を吊り上げ、大きな瞳には“怒”の一文字が星の様に輝き、怒り故か頬は紅潮しています。


美人だからとか、そういうのも抜きにして、正直シャッター押せるもんなら押してやりたい気分になりました。

つまりは“怒った顔も可愛い”というわけで。――何処の少女漫画だよ。



「なんですか本当に」


「あんたね、言うだけ言って“かえりますねー、アハハじゃっ”て、許せぬわハゲ!」


「ハゲてないし、そんなアハハなんて言ってないです」


「ヤり逃げなんて酷いわ馬鹿!」


「誤解を招く様な発言は止めて下さい」


「ムゥ………〈ばしっ!〉」


「いった!! 殴ったね!?」


「殴ったよあー殴ったさ! 何か!?」


「えええ――!? 開き直ったよこの人!」



実際、殴ったというより叩いたんですがね。

お約束としては「殴られもしないで大きくなった奴があるか!!」と返すべきでしょうが、如何せん作者はその年代じゃないから入れません。





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