「昔からね、他人の顔色ばかり伺ってましてね」



本当かよ、と思いながらも、北村さんは黙ってました。

体に巻き付けてた毛布を肩に掛け、体育座りで華奢な体を更に小さくしながら、富士原さんは話しています。

その体がたまにグラリと揺れる度に気の毒な思いを抱えながら、北村さんは聴いています。



「両親が小さい時に別れて、ボクは祖父母の家に行きました。―――二人とも恋人が居て、ボクを連れて行きたくないのは解ってたんで」


「うん」


「そんな事があったからか、人と正面から目を合わせたり、真剣に話したりするのが怖いんです。本当はここに居たくないし、生きてたくもない」


「…………」


「これだけです」



ちょっぴり悲しそうに、でも何だかスッキリした感じで笑ってみせると、富士原さんは立ち上がって毛布をソファに乗せました。



「つまんない話して、すみません」


「…………」


「帰りますね」


「…………」


「じゃっ」


「まてや―――!!!」


「ぐぇえっ!?」



言うだけ言ってさっさと帰ろうとする男の襟首を掴んで「まてや―――!!!」


なんという、豪気。

男らしいっていうより、あんたもっと落ち着けよ。



「――が、ごほっ! ちょ、き、た、むらさん!? ――――いや順子てめぇ犯すぞ!!!」



富士原さん、キレる気持ちはよく解るがね、自重してね。



「あ、すまん」


「かるぅぅい! 今のは人身事故だったよな!! ああ!?」


「まあ座れ」


「いやだ!」


「座れ!」


「――……」


襟首を掴んでいた手を放し、北村さんは巻き舌で叫んで自分の隣のソファの空白を〈ばんっ!〉と叩いて見せました。

いきなりだったし、ソファと一緒に自分も叩かれたという錯覚により富士原さんは一瞬ビビりました。


どうしよう隣に座ったら殴られたりして。

嫌だよぅ、痛いの怖いよぅ、そう思いながらも半泣きで北村さんがぶっ叩いた所に腰掛ける富士原さんでした。

気持ちはよく解るよ。



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