「ねぇ」


「何だ」


「…………」


「…………」



自分から話し掛けたくせに、富士原さんは黙ってしまいます。



「…………」



三十秒もしないうちに、北村さんは直ぐ様立ち上がって出ていきたいという衝動に駈られました。
なんともせっかちな。


一体、会話も無いくせに話し掛けるアホゥが何処に居るのでしょうか?

―――此処に居るな。


抑えきれない貧乏揺すりで右足をガクガクガクガクさせながら、苛々と富士原さんを見て、



「………――」



直ぐに視線をそらします。

貧乏揺すりも苛々も、潮が引く様に、少しずつ消えていきます。


さっきまでニコニコヘラヘラしていた富士原さんは、今。



とても泣きそうな表情で、うつ向いてました。

見てはいけないものを見てしまった様な心持ちで、北村さんは胸の辺りがぎゅうっとなりました。


なんで、いきなりそんな悲しそうにするのでしょうね。



「……ねぇ」


「………。ん?」



再度話し掛けられ、思わず北村さんの声が優しくなりました。

それに気付いたのか、富士原さんは小さく笑って、



「なんか、……色々、迷惑かけてて、ごめんなさい」


「え、……―――え? ああ、うん、別にいいよ」



別にいいよ、というか、自覚あったのか、というか、何故今なのだ、というか。



「なんか………どうしたん、あんた」



色々と予想外な事ばかりで多少混乱している北村さんには、此れが精一杯の優しい言葉でした。

富士原さんはそれが嬉しかったらしく、



「珍しいですね、そんなに優しいことを言うなんて」



「茶化すな、さっさと吐け」


「………はい」



“吐け”って、事情聴取かよ。



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