さっきまで寝てたハズの男が喋ってます。


忘れてましたが、コイツは前髪長くて目元隠れてましたね。

いい加減切るか留めるかさせますか?
北村さんの家の洗面台にはヘアカット用ハサミとヘアアクセがわんさかありますから。

いっそ蝶々のヘアクリップでも付けて女の子にしちゃいますか。



「いやですー、ボク男がいい」


「あ、そう」


「うんそう」


「どうでもいい」


「ん〜?」



富士原さんは毛布を両手で体に巻き付けて起き上がり、上目づかい―――だと思う―――で北村さんを見上げます。


少々面白がってる様子。


前髪の隙間から覗く瞳はキラリと光り、それを見た北村さんは目をそらせなくなりました。


さっきもコレでチーズリゾット作るハメになったのにね。



「な………んですか」


「なんですかって、まだ何も言ってませんよ」


「ゔ……」


「とりあえず、座っていいですよ」


「いいですよって、私の家だぞ」


「いいじゃん」


「だめじゃん」


「座れ」


「……ハイ」



なんだかんだでじわりと攻守が変わってきてますな。


北村さんもソファに座りましたが、全くもって密着なんてものではありません。
なんせ軽く大人四人は座れる大きさなので。


プラスして、北村さんは富士原さんを心底信用してませんからね。


と、いうわけで北村さんと富士原さんの間にはぽっかりと妙な距離が出来てます。



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