よいしょ、と言いながらナオはぼくを持ち上げた。

「マサムネ、今からね、お客さんが来るんだよ」

さっきの電話と、この張り切りぶりからして…
もしかして…

ナオは出社前のバッチリメイク顔と、お出掛け用のワンピースになった。
こんなナオもすきだけど、ぼくは化粧なんてしてなくても、
寝る前のジャージでも、なんでもいいのに。

インターホンの音で、ナオは玄関に行ってしまって…
やっぱり、そこには男の姿があった。
黒髪の、背の高い、タバコのニオイのするスーツ姿の男。

「ごめんね、突然…顔見たくてさ」

「あ、いえ…私も、うれしいですから」

ナオが自分のこと…『私』って呼んでる。
ちょっと、はにかんでる。

「へぇ、猫飼ってるんだ?黒猫飼うなんて珍しいね」

おまえも黒い髪の毛だろう。
いけ好かない男だ。
…なんとなく。