「…それじゃあ、待っててくれる?」

「待たない。さよなら。
 鍵はまた、送ってくれたらいいから」

ナオは沢木の顔なんか見ずに、歩いていったけど、
ぼくは沢木の見たことのない顔を最後まで見てた。

沢木には、あの女の人もナオも必要なのかもしれない。
でも、あの女の人もナオもかわいそうだ。
沢木もかわいそうなのかもしれないけど、
ぼくは、ナオのことが好きだから、見てるのがつらかった。

だから、ぼくはナオの胸の中に深く顔を埋めた。
ナオの心臓は、ドクドクゆっていた。