「え、へへ…お家、帰ろっか」

ナオは涙をごしごし拭いて、にっこりぼくに微笑んだ。
そういえばナオが泣いてるところを見るのは久しぶりだ。

よく見れば、ナオは会社帰りのスーツ姿だった。
だけど、足元はサンダルだった。
ナオに抱きかかえられながら、ぼくたちは家に帰った。
帰り道に、ナオはたくさん、ぼくに話し掛けてくれた。
今日の夕飯はなんだとか、最近仕事がどうとか、
あの男のこととか…。

ナオをかなしませることは、したくないって、思った。
だから、ぼくは、話すことなんてできないけど、
黙ってナオの話を聞いていた。