「ただね、瑞江さんの言ったこと、一部は当たってるけど、微妙に違うなって思ったりもしたの」


陶子さんは、返事をしない俺に構わず話を続けた。


「私は確かに、彼女が言うように優等生だったかもしれない。

親や先生の期待に沿うようにしたいって思ってたし、それをわりと難なくこなせたわ。

でもね、それを苦痛に感じたことはあまりないの。

自分のありたい姿と周りの期待がイコールだったから、かもしれないけどね。

でも、わがままでもあるのよ、私。

自分でやりたいと思ったことはたいてい我を通しちゃうの。

大学院を勧められた時は確かに悩んだけど、でも、本当は自分でも断るしかないってわかってたと思うのよ。

ただ、それを誰かに後押ししてもらいたかっただけ。

でも、後押ししてもらうのは、やっぱり自分をよくわかってくれてる人じゃないとね。

私は友人の前でもその相手が望む自分を演じてしまうようなところがあったから、実は親友と呼べる相手が少なかったの。

あの頃、私にとって、心から親友と思えるのは、瑞江さんだけだったのよ」