またな、そう言って、修司は中央出入口を出て行った。


「夏井くん」


桜花のマネージャーが、優しい声で話し掛けてきた。


「修司の分も、絶対に勝って下さい。桜花に勝ったんだから、甲子園に行ってもらわないと困るんです」


「あ、はい」


つくづく、感心する。


南高野球部マネージャー、花菜も。


この桜花のマネージャー、まりこという子も。


野球部のマネージャーってのは、どうしてこうも強いのだろう、と。


「今日は、おめでとう」


「ありがとう。頑張ります」


そう言って笑うと、桜花のマネージャーは強気な口調をした。


「本当に困るの。じゃないと、修司が頑張って来た意味が無くなるもの」


「うん、分かってる」


「分かってないよ」


桜花のマネージャーは、真っ直ぐな瞳をしていた。


この子、修司の事が好きなんだな。


直感的に、そう思った。


もしくは、修司の彼女か。


「まりこちゃん」


「はい」


「修司の彼女ですか?」


深い意味は全く無く、ただなんとなく訊いてみた。


「違います」


彼女は顔を真っ赤にして、ふるふると首を振った。


「でも、私は修司のこと好きだけど」


1年生の頃からずっと、好きです。


でも、修司の目には野球しか映ってなかった。


修司は、死に物狂いで野球ばかりでした。


わたしがつけ込めるような隙間はなかったです。


と、まりこちゃんは伏し目がちに言った。


「修司は、この3年間を野球に注ぎ込んだの。それは、今日のためだよ」


「今日の?」