勝手に涙がこぼれていた。


鼻水が止まらなかった。


すげえ女だと思った。


おれの母さんは、すげえ女だと思った。


泣き止んだ時、時間は、午前3時半になっていた。


頭がずっしり重たかった。


おれはスポーツバッグから、グローブを取り出した。


高校1年の春から、今日までの事が、走馬灯のように頭を駆け抜けた。


でも、答えは出なかった。


こんな中途半端な気持ちの状態で、おれはマウンドに立てるだろうか。


投げる事ができるものなんだろうか。


溜め息をついてグローブをスポーツバッグにしまいかけた時、おれはその存在に気付いた。


「これ……翠の」


ハローキティの分厚い手帳が、おれの目に飛び込んできた。


何気なく、中をぺらぺら捲ってみる。


その手帳には月ごとのカレンダーがあって、1日ごとにちょっとしたメモを書き込める、スケジュール帳が挟んであった。


2006年。


2007年。


そして、2008年。


でも、そのスケジュール帳は真っ白だった。


なんだよ、これじゃ、手帳の意味がねえじゃんか。


一体、何のために、こんな分厚い手帳を翠は大切にしているのだろうか。


他に何か書いていないのか、と最後まで見てみることにした。


途中なか、アドレス帳が出てきて、でも、そこも真っ白。



最後のメモ帳のところに辿り着いた時、おれは手を止め、息を呑んだ。


びっしり、目がじらじらしてしまうほど、事細かに箇条書きされている。


思わず溜め息をついてしまうほど、びっしりとうまっていた。