「はい。遅くにすいません、話があって」


『そうか。どうした?』


明日、行けません。


もう、投げることができません。


すいません。


それだけ言って、おれは一方的に電話を切った。


そして、電源もオフにした。


ICU室前のソファーに戻り、さえちゃんに笑顔で伝えた。


「大丈夫だから。おれが居なくても、南高は勝ち進むよ」


「何……言ってんの?」


さえちゃんが青ざめた表情で、目をきょとんとさせた。


「今、監督に電話で伝えた。試合行かないって。投げれないって」


そもそも、こんな状態のおれが投げたら、メッタ打ちされてしまうだろう。


無様な負け方をするに決まっている。


「集中力がプツン」

こめかみの辺りを人差し指で突いて、おれは笑いながら肩をすくめた。


「だから、響ちゃんには言いたくなかったのよ!」


とさえちゃんは泣き出してしまった。


それから30分もした頃だった。


長い廊下の向こうから、バタバタと駆けて来る足音が響いてきた。


1人じゃない。


数人だという事は、その数種類の足音で分かった。


目を細めて見つめると暗闇から、3人の男が現れた。


「響也」


先頭を切って現れたのは、スウェット姿の健吾で、


「夏井」


と次に現れたのは、キャプテンの岸野だった。


「健吾……岸野も」


「夏井。あんな電話じゃ、話にならんだろう。途中で切るんじゃない」


「監督……」


監督はあのあと、おれの携帯電話にかけ直してくれていたらしい。


でも、電源をオフにしていたのだから繋がらないのは当たり前だ。


監督が健吾に電話で確認をとり、健吾は岸野を呼び出し、監督の車でここに来たらしかった。


おれたちは、きちんと話をつけるために、1階のロビーに向かった。