左手に握っている紙はまだほんのりとぬくもりがあって、翠と手を繋いでいるような感触だった。


おれもさえちゃんも、ソファーしかない待合室で昼飯もとらずに翠を待ち続けた。


人間2人分ほどの距離を置いて、右横に腰掛けていたさえちゃんが、沈黙を破り話し掛けてきた。


「響ちゃん」


「うん? どうしたの?」


さえちゃんが、壁に掛かっている丸い時計を指差した。


「もう、3時になるよ。学校、大丈夫?」


言われて時刻を確認すると、もう午後の2時45分を回っていた。


「うん。学校は、最初からさぼるつもりだったからさ」


と返し、おれは座り具合を直した。


長時間、同じ体勢のままだったためか、腰がどっしりと重く固くなっていた。


「練習は? 予選、今週じゃない?」


さえちゃんは心配そうに言い、少し疲れた表情を見せた。


おれは何も答えずに、翠から受け取った紙を握り締めて、窓の外に空げな視線を游がせた。


待合室はエアコンが効きすぎていてひんやりと肌寒いくらいなのに、外は暑さが滲み出て見えた。


太陽はギラギラと突き刺さるように照り返していて、アスファルトからは陽炎が出ているんじゃないかと予想した。


おれは、翠から貰った紙を開き、目を通した。


翠の字は堂々としていて、性格がそのままま写し出されていた。


大きな文字だった。