私には、お父さんはいない。私達がお腹にいる時に病気で死んだんだって。本当、ドラマでよくある話。私と桜子は、お父さんの存在も記憶もない。だから、悲しいとか寂しいって気持ちは一切ない。だた…どんな人だったのかなってのは時々思う。お父さんいなくて、お母さん1人で娘2人育ててる。それってものすごく大変。だから、私はお母さんのお手伝いがしたい。塾とか行ってる場合じゃない。そんなお金があるなら、美味しいもの食べた方がいい。

それに、あの人に会いたくないし…。



いつも真面目に勉強してる人。名前は、小酒井 怜治(コサカイレイジ)。家も結構近くて、真面目に塾行ってた時は、いつも一緒に帰ってた。勉強しか頭にない人、本当頭が良くて、私より1つ上。小酒井に会うと、なんか胸がきゅうってなる。よくわかんないけど…締め付けられる感じ。

ううん、よくわかんなくない。本当は、これが何かわかってる。でも、認めたくないの。

私は…小酒井が"好き"なんかじゃない。

恋って辛いから。小学校の時で充分。もう、中学校の恋なんていらないです。余計辛そうだから。

…もうやだ。考えたくない。ご飯食べたし、お風呂も入ったし。もう、寝よう。明日は日曜日だ。




「おやすみ」


そう自分に言って、私は眠りについた。
夢の中でも、あの人はいた。


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〔ねぇー、小酒井〕

〔ん、何?〕

〔ここ、わかんないんだけど〕

〔あぁ、ここわね…〕


あの人の勉強する姿、あの人の髪の先をいじる癖。
1つ1つに愛しさを感じる。
全てが恋しくてたまらない。
今でも会いたい、話したい。
だけど、その望みは相手を困らせるだけ。
勉強だけのあの人にとって、私は邪魔なだけ。
だから、この感情も、この愛しさも、全て捨てるの。




どうせ、実らないのだから。




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その時、私の枕元で携帯が鳴り響いていた。