「午後の実習よろしくお願いします。」

と大きな声を出して挨拶し、それぞれ患者さんのところへ行った。私の受け持ち患者さんは、経管栄養をしていた。初めて実際に見る。私は黙ったまま、患者さんを見ていた。すると担当ナースが来て、

「これから別の患者さんの浣腸と摘便するけど見る?」

と言ってくれた。もちろん、はいと返事した。ナースという者は、午前中はこなさなければ行けない仕事が山盛りで、いつ急患が出たり、入院が入ったりするかわからないから、早め早めに仕事をしようとする。だからぴりぴりしているのだ。これが午後までにサクサク仕事が順調に進むと余裕ができ、精神的にゆとりが生まれる。担当ナースは朝とは違い、少し優しくなっていた。

「この患者さんはね、浣腸しても自力でお便が出せないから、指で掻き出すのよ。さあ、ディスポの手袋をつけて。」

と私にゴム手袋を渡した。ディスポとはディスポーザブルの略で、使い捨てのことである。え、え、どうして私がこれをつけるの?と思っているうちに、ナースは浣腸をかけた。

「さあ、肛門に指を入れて。」

え、どの指?とまごまごしていたら、ナースは最初に摘便のお手本を見せてくれた。人差し指で、石ころのように固い便を一個掻き出した。次に私にするように言い、私はおそるおそる肛門の中に指を入れた。初めての直腸の感触。柔らかくてなめらかなゴムのようだ。指を奥まで進めると、固い壁につきあたった。それが便だ。

「指を奥まで入れて、人差し指をまるめて引っ張り出すのよ。」

と教えてもらい、汗をだらだらかきながら、便を摘出した。やった、初めてナースっぽいことをしたなあと思っていると、

「直腸内の便を全部出し切るのよ。」

とナースは言い、うずらの卵位の大きさの固い便を、5~6個掻き出した。最後にナースが肛門に指を入れて確認し、おしりを温かい布で拭き、衣類を整え便処置は終了した。すごく緊張したけど、初めて専門的な処置をすることができて、嬉しかった。